夏石鈴子 『いらっしゃいませ』(Amazonリンク)
久しぶりに小説を読みました。R25の書評で「新社会人にはもちろん、新社会人の頃の気持ちを忘れかけている若手社会人にもお勧め」みたいなことが書いてあったので気になって。別に最近「オレ、新社会人だった頃は何考えてたんだろうなあ」なんて思ってたわけじゃないけど、なんとなく“あの頃の気持ち”を思い出してみたくなったっていいじゃないですか(笑)。
舞台は出版社の受付。短大を出て出版社に就職し、受付に配属された新社会人「鈴木みのり」を中心に展開されるドラマが、みのりの心の動きも含めてよく描かれています。
入社した日に人事部の人に連れられて社内を案内される様子とか、「初給料で何買う?」トークとか、電話が鳴ってても取ろうとしない先輩社員とか、取引先でキツイこと言われてトイレで泣いたりとか、で、その子を慰めたりとか...社会人なら誰しも自分を重ねることのできる“懐かしいあの頃”満載です。あ、オレはトイレで泣いたことはありませんよ^^;電話が鳴ってても自分では取らず、必ず新人に取り次がせる先輩はいたけど(笑)。
中でもオレの心に響いたのが、この記事のタイトルにもした「自分の成分が薄まっていく」のところ。
広報部からもらってきたりんごをみのりが包丁で剥いていた時の話。みのりがくるくると皮を剥いて、「ああ皮が切れないでずいぶん長くなったな」と思っていると、上司の女性が笑いながら「あら、おりんごはまず4つに切ってそれから皮を剥くものよ」と言ってきた。みのりは「えっ、そうなのかな。うちではずっと先に皮を剥いて、それから4つに切るのに」と思いつつも、「あっ、そうでしたよね。すみません」と笑って返し、2個目からは上司に言われたようにした、というくだり。
みのりは(以下「」内、本書より引用)
「こんな時、自分の成分が薄まっていく、と感じる。別にそんな成分、薄くなっても構わないのだ。でも、なんだか淋しくもなる。木島さん(上司の女性)を優しいいい人だと思う。でも、そんな風に思ってしまったことも本当なのだ。」
(注)上のくだりのとこだけだと、木島さん(上司の女性)が嫌なお局みたいな印象を与えてしまいそうだけど、全然そんな人じゃないんです。みのりも言っているように「優しいいい人」です。
この「自分の成分が薄まっていく」の、オレも時々感じるんです。「それ、どっちだっていいんじゃない?そこは好みの問題でしょ」なんて思いつつも、なんとなく上司に言われた通りにやってみる、みたいな。そんな時は「自分の成分が薄まっていく」というか、ちょっとした敗北感もあったり。
で、思うのは「ここは今回こういう風にやったけど、オレはオレのスタイルをちゃんと覚えとこう」ってことと「オレに部下ができたら、こういうとこは部下の好みで好きにやらせてあげよう」ってこと。後者はさておき、前者は「覚えとこう」っつったってそう覚えてられないわけで...結果、オレの成分は薄まっているんだろうなあって思う。
かといって、いちいちそういうとこで上司と戦ってエネルギー使うのも不器用だよなあ...^^;
ってこの話、オレの中でも答えは出てないんです。でもこういうことを認識しておくだけで十分かもしれないとも思ってて。「薄まっちゃだめだぞ、オレ」っていうね。
新社会人みのりにいいことを思い出させてもらいました^^。上に書いた通り、他にもいろいろ新社会人ならではの話が載ってるので、あの頃の自分に会いたい人はどうぞ(笑)。
ちなみに、この小説がなんでここまでリアリティのある新社会人生活を描けているかは、あとがきで明かされます。小説本編もさることながら、このあとがきもおいしい^^。
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